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水原涼「焚火」。勤務先の図書館で見つけた黄色い表紙の単行本。それは従姉のちかちゃんの部屋の本棚にあった、アントニオ・タブッキに関する書だった。「ぼく」はそれを読みながら、彼女の記憶を呼び覚ますことになる。なぜなら彼女は、もういなくなってしまっていたから。新鋭が描く力作中篇。
高瀬隼子「水たまりで息をする」。風呂には、入らないことにする。ある夜、35歳になる夫がそう告げた。結婚して十年、この先も穏やかな生活が続くと思っていた衣津実は、夫と自分を隔てる細い割れ目に気が付いて……。今を生きることの息苦しさを掬い取る意欲作。
ブルーノ・シュルツ(マルツェリ・ヴェロン)「ウンドゥラ」。大戦間期に活躍し、文学に新しい地平を拓いたと言われるユダヤ系ポーランド語作家シュルツ。昨年5月に報道された、別名で発表したとされる未発表短編を掲載。訳・解説/加藤有子。
文芸漫談/奥泉光+いとうせいこう「大江健三郎『芽むしり仔撃ち』を読む」。前回の『ペスト』に続く「閉鎖文学」シリーズとして、初めて存命作家の作品を取り上げる。『芽むしり仔撃ち』の位置づけと、その魅力とは何か。
杉田俊介「橋川文三とその浪曼」。「三島由紀夫と美的革命(五)」。橋川が三島の命がけの思想に対峙しつつ問い続けたものとは? 橋川が構想していた日本革命の理念とは? 著者がかねてから問うてきた主題を橋川に寄り添うように論じた連載、ついに最終回。