ひと 2005/12 アラン・ド・ボトン
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アラン・ド・ボトン氏
 渋谷のど真ん中にあるというのに、田舎ふうにがさつなホテルだった。しかし「聖アラン」(命名したのは「ニュー・ステイツマン」の書評子である)は、びくともしない。TV取材のクルーと同行していたから、ホテルは「あのNHK」御推薦に相違あるまい。

 ヒースローからナリタまで十二時間の空の旅はこたえましたよと訴えながら、その朝着いたばかりのアランはつるりとした感じ、まあ仮眠のあとシャワーを浴びたばかりといった感じだった。肌あくまで白く、染みも皴もなく、わずかに頬に朱がさしていて、(思いっきり額が禿げ上がっているにもかかわらず若々しく、それどころか)妙に少年っぽい。

 コーヒーも水さえもいらないと断わって、さっそくインタヴュに入ろうとしたのだが、カメラマン氏が光の状態のいいうちに(当世風だが優先順位が狂ってやしないかなあ)写真を撮りたいと言い出す。アランは一見気楽に応じ、(若さを見せびらかすように?)渋谷交差点の雑踏のなかまで歩いて見せるのだった。九月九日、菊酒を酌むべき重陽なのに、光は夏の烈しさを残していて、参ったのは病み上がりの聞き手のほうだった。

 アラン・ド・ボトン氏とのつきあいは、彼の最初の世界的ベストセラーとなった『哲学のなぐさめ』(二○○○年、世界各国で翻訳され、総部数は一五○万に及ぶとか。邦訳は二○○二年刊)からだが、ぼくは「訳者あとがき」なるものをこんなふうに書き出している||「思いきったタイトルをつけたものだな」と。何と言っても、中世を通じて聖書のラテン語訳に次ぐベストセラーとなったボエティウスの名著のタイトルを(畏れ多くも?)そっくりそのまま引き継いでいるのである。せせこましいワガクニの知的風土ではハミダシッ子でも、ぼくはけっこう心配になって||彼、袋だたきに遭ったりしないかな?||援護射撃にでもなればと翻訳を引き受けたのだが。

 この年、アラン、三十一歳。早熟な才能の持主で、二十三歳から小説を(本人は「愛をはじめ人間関係を論じたエッセイに近いものだった」というのだが)立て続けに三冊出版したあと、二十八歳で『あなたの生活をプルーストはどんなふうに変えられるか?』という奇抜なタイトルのエッセイで注目を集める。

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