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第42回すばる文学賞・受賞者インタビュー・須賀ケイ

 選考会終了後、受賞者の正体を明かされた選考委員の中から、驚嘆の声が上がった。「本当に去年のあの最終候補作の筆者?」と。そのことを伝えると、思わず笑みがこぼれる。
「意図的にまったく違うテイストの作品で勝負したつもりなので、嬉しいですね。前作の舞台は海外でしたが、今回の作品はより身近な世界を書くことに決め、日本の、関西の、一つの家族の話にしようと取りかかりました。家族のなかに浮遊する〝悪いやつ〟について書こうと思ったんです」
 去年、落選の知らせを受けてからすぐに構想を練り始めたが、締め切りの近づく年明けまで「何か決定打に欠ける」と悶々としたという。
「家族に煙たがられ〝悪者〟にされる存在といえば、お父さん。母親と三姉妹という女系一家の父親を中心に書き進めていたのですが、なかなか筆が乗らず……。でも、純子という登場人物が出てきて、「あっ、この人を書きたかったのかな」と、自分のなかで腑に落ちたんですよね。そこから、テーマは変わらないのですが、粘土細工みたいに一回つくったものを原型がなくなる一歩手前まで潰して、気の済むまで捏ねて、造形しなおしていきました。純子が出現してから、物語全体が動き始めたように思います」
 この純子が、作品を明るく複雑に彩る推進力となった。読者は彼女を誤解し、彼女に翻弄され、謎を深められ、ときに笑わされ、続きを求めることになる。しかし、彼女が構造上の道具的な役割を背負わされるのではなく、主人公として作品世界をいきいきと駆けまわる、その姿が印象的だ。
「センシティブな題材でもあるので、慎重に書きましたし、今でも一部の表現に迷いはあります。一方で、書きながら楽しかったというのも事実です。純子は天真爛漫で、世界に対して閉じていない。そういうところが僕とは正反対で(笑)。どこまでも自由に羽ばたける存在なので、ストレスがなかったんですよね」
「一つの家族の話」を、二百枚弱のボリュームに書き継ぐというのは、持久力を要する作業だ。いつから、どのようにその力を身につけていったのか。
「実のところ、本を読み始めたのが大学生の頃なんですよ。小学校は野球、中学からはバスケットボールとスポーツ一色で、読書は嫌いだったくらい。大学に入って、何かの拍子に読み始めたんです。「なんや、おもしろいやん!」と、気づいたら年間二百冊くらい読んでいました。好きになったら、極端なんです(笑)。
 執筆に関しては、ボールがあったら触ってみたくなる、シュートを打ってみたくなるのと同じ感覚で、読むという行為に触れた後、自然と書き始めていました。以来七年間、ジャンルを問わずたくさんの賞に、書いては応募をくり返してきました」
 影響を受けた作家を訊ねると、平出隆、星野道夫、京極夏彦、横山秀夫、冨樫義博……と、つぎつぎに幅広いジャンルから名前が挙がった。
「形式にとらわれず、いろんな作品を書いてみたいです。スマホのメモ機能に今後挑戦したいテーマをストックしているんですけど、それを見返しても主題は様々なんです。ストーリーを書きたいというのも勿論あるんですが、それ以上に人物にフォーカスしたい。書きたい物語があるというよりは、書きたい人がいると言ったほうがいいかもしれません。本当に、いっぱいいるんですよ」
 これまでもこれからも、創作の原動力になるのは、「ノンフィクションに対する嫉妬心」だという。
「フィクションって、何でもできるじゃないですか。空を飛んでいいし、魔法を使ってもいい。そんなふうに縛りがない表現のはずなのに、現実/事実の強さに負けていると思ってしまう。「そんなのないだろう」と、目を瞑りたくなるような衝撃的な現実が切り取られたノンフィクションの作品を読むと、嫉妬するんです。だからこそ、現実に負けないような、現実に迫れるような力を持った小説を書くことができる作家に、いつかなりたいんです。
 物心ついたころからインターネットが身近にあって、総じて情報量の多い生活を送ってきました。小説は読むのに時間がかかりますし、あらゆる創作のなかで、受け取る側の労力を最も要求する表現の一つですよね。娯楽はスマホに手を伸ばせば事足りる時代です。だからこそ、余程おもしろくないと小説に時間を割いてもらえない。書き続けるにも、覚悟のいる時代だと思います。今はただ、小説の〝余白を想像する楽しさ〟にたまたま気づきのめり込んだ一人として、小説だからこそ達成できることは何かを考え、一つでも多くの作品を発表したいと思います」

「すばる」2019.1月号

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