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「性愛でなく、友愛で結ばれること」春見朔子『そういう生き物』 江南亜美子

春見朔子『そういう生き物』

本体価 1,300円
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 血縁でない他人同士の二人暮らし。婚姻関係はなく、いかなる契約も性愛も介在しない。ただの居候よりはちょっと近しい距離感の、どこか奇妙な暮らしぶり。本書は、そんな光景を映しだす。

 薬剤師の千景は偶然訪れたスナックで、高校で同級生だったまゆ子と再会する。金髪と美しく化粧された顔は十年前と違ったが、すぐに識別できた。それを機にまゆ子は千景の部屋へわずかな荷物と寝袋ひとつで転がり込む。期限の約束も大義名分もない同居生活の始まりだ。

 千景は人懐っこい性格などではない。むしろ逆で、特定の恋人は持たず社会性も普通。人間など〈ただの有機物のかたまりなのだ。(中略)さみしさも、愛情も、電気信号に過ぎない〉と考える合理主義者である。ではなぜまゆ子を突発的に受容したのか。訝しむ読者はやがて、過去に何かあるらしいと気づく。

 じわじわと薄皮をはがすように、二人の関係を顕わにしていく著者の筆致は、抑制的だ。「謎」に向かって一直線に突き進んだりしない。千景はかつて師事した大学教師の元で線虫を観察する休日を過ごす一方、時おり虚無的な性交渉を外の人間に求める。まゆ子は、千景の先生の孫である小学生の央佑と仲良くなり、連れだって動物園に行くまでに。一見平穏な日々。しかし同級生の結婚式を契機に、二人は過去も含めた自分たちの関係を意識せざるを得なくなる。〈「原田さんて、広川とつき合ってたんでしょ?」〉

 未読者のために詳述は控えよう。ただここにはセクシャリティの問題が絡む。昨今この問題――なかでも性的マイノリティについての言説は、多様性の名のもと、少数派の意見こそ価値を持つとする政治的正しさがかろうじて命脈を保ち、いわば特権的なテーマとしてしばしば扱われている。しかし本作の優れた点は、それを声高に語らないことにある。

 人は元来、セクシャリティの属性だけに自らをレプリゼントして生きてはいない。それはパーソナリティの一部でしかない。しかもそのセクシャリティもまだ名づけのない、ごく私的な違和の感覚である場合も多い。テーマになりえない、個人のささやかな葛藤……。本書が描こうとしたのはおそらくそれであり、また葛藤を持つ者同士が友愛的に結びつくさまである。そこには弱者も強者もない。央佑を交えた三人が雌雄同体のカタツムリの交尾を観察するシーンは象徴的だ。

 人を一面的に捉えない。本作が、千景とまゆ子の両者の視点をスイッチしつつ進むのも、そうした理由からだろう。優しげな語りの下に、並みならぬ気概があるこの小説。著者の今後が楽しみだ。

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