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「見事な一冊」又吉直樹 堀本裕樹『芸人と俳人』 北村薫

又吉直樹 堀本裕樹『芸人と俳人』

本体価 1,500円
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『芸人と俳人』。不思議な題だ。

 昔、保篠龍緒は『ルパン対ホームズ』を『怪人対巨人』と訳した。同じように、妙にそそられる。どういう本かといえば、まことに実践的な俳句入門書でもあり、対談集でもあり、ひとつの物語でもある。

 俳句における《取り合わせ》について、俳人堀本裕樹氏は語る。《本来関係ないけども、一句の中に入ることで、詩的作用を生み出します。「二物衝撃」という言い方もします》。この本自体が、まさに、その《衝撃》からスタートしている。そして、《芸人》と《俳人》という《二物》の、《関係な》くはない部分まで見えて来るところに、また味がある。

 芸人又吉直樹氏は初め、《句会というのは人の句を選ぶのでしょう? 器の小さい話なんですが、僕、寿司屋で注文できないんですよ。「お任せで」っていつも言います。センスを問われることが恥ずかしくて、選べないんです》といっている。実によく分かる。ルールを知らずに試合に出される居心地の悪さは、想像するだに恐ろしい。

 だが、その氏も修業を重ね、第八章で句会に臨む。中江有里、穂村弘、藤野可織といった諸氏が登場するところで、わたしは映画『七人の侍』を思ってしまった。まずは堀本、又吉両氏が現れ、ここに至って、俳句と切り結ぶ剣士達が勢揃いする(五人だけどね)。勇壮に「侍のテーマ」が流れ出すような気がした。

 ――してみると、堀本さんが志村喬。又吉さんは、映像的イメージや性格づけは違うけど、実は三船かな? さて、剣豪役の宮口精二は誰だろう?

 などと、わくわくした。

 読み物としての展開が実に見事だから、そう思わせられるのだ。

 句会から静かに吟行(ぎん こう)へと場面は移り、鎌倉の寺巡りをしつつ、又吉氏はつぶやく。《花に限らず、後ろ姿や何かの裏側を見るのって、僕、めっちゃ好きなんですけど、あれってなんでおもろいんでしょうね》。堀本氏はいう。《僕は今日、又吉さんの後ろ姿をよく見ましたよ》。

『芸人も俳人』や『芸人で俳人』という視点で作られていたら、つまらないものになっていたろう。『芸人対俳人』でも駄目だ。これはまさに、『芸人と俳人』という本だ。

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