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「ほどきだされる記憶」小川洋子 平松洋子『洋子さんの本棚』 西田藍

小川洋子 平松洋子『洋子さんの本棚』

本体価 1,500円
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「子ども時代の記憶をひもとけば、お互いに、まるで自分のことのようだと思う」という、ふたりの洋子さん。同郷で、同世代。ものを書く仕事をしている。小川洋子さんは小説を、平松洋子さんは、エッセイを。いつだって本と一緒だったふたりの洋子さんが、洋子さんを形作った本、取り巻いた本、暮らし、人生について、語らうのだ。少女時代のささやかな記憶の欠片から。豚小間が一パックあったら何を作るか、まで。

 少女時代の本棚。

 少女から大人になる、ときの本棚。

 家を出る、本棚。

 人生のあめ玉、の本棚。

 旅立ち、そして祝福、の本棚。

 まさに、生まれてから死ぬまでの本棚。

 少女はいつか大人になり、母になる(かもしれない)。洋子さんは、娘であって、母である。どの本棚に向かっても、娘であった私と、いつか母になるかもしれない私が、なぜだか、重なって溶けていく。

 文筆家ふたりの本のセレクトが読みどころかと思っていた。いや、魅力的な本の紹介、本と本がつながっていって、そのつながりのかたちに美しさまで感じる会話は、確かに読みどころ。だけどそれだけではなくて、その言葉ひとつひとつが集まったとき、まるでモザイク画のように浮かび上がった、女として生きる人生そのものが、私の心を捉えた。

 自分にとって大切だと思える記憶でも、中々ひとりでは蘇らないものだが、誰かの言葉によって、驚くほど深いところまで引き出され、そのときの自分を知ることができる。読書というものは、無数の誰かの言葉の連なりであるが、それによって引き出されたふたりの洋子さんの会話、その言葉で、私の頭の中からも眠っていた記憶がたくさん引き出されて、落ち着かせるまでに、少し休憩を挟んだくらいだった。

 自分の言葉で語ることはとても難しいけれど、読んだ本に対しても、読んでない本に対しても、いままで知らなかった自分の中の言葉がするする紡ぎ出される、濃密で不思議な体験だった。

 私のように孤独に本を読んできた経験が多い人ほど……この「するする」感は衝撃かもしれない。同郷でもないし世代も違うけれど、たぶんだからこそ違う形で言葉の化学反応が起こって、元は会話なのだけれども、やっぱり文字で書かれたものは特別というか、何度も読み返せる、読者の特権、喜びを感じた。

 そう、読む者の幸福は、決して尽きることはない。

「すばるから生まれた本」書評

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