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「「帰るところ」は、どこか?」 佐川光晴『おれたちの故郷』 和合亮一

佐川光晴『おれたちの故郷』

本体価 1,200円
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 私は高校教師である。いつも生徒たちの青春のエッセンスに触れている。この『おれのおばさん』のシリーズを読んでいるといつも幾度か涙が出そうになる。頁をめくりながら、それぞれの登場人物たちと共に様々な呼吸をさせてもらえるからだ。日々過ごしている教室の時間そのものが、これら一連の物語に宿っていると感じる。

 恵子おばさんは魅力的な人物だ。五十になっても大変なエネルギーの持ち主で人々を惹きつける。陽介と卓也の正に育ての親であるが、至極人間的、いわゆる反面教師の面も大いに持っている。しかしここぞという時には彼らの鼻先をぎゅっとわし掴む。いつもそこがいい。

 陽介と卓也。二人の成長は目覚ましい。最初の物語『おれのおばさん』では、それぞれにつらい過去を持ち、それに心をさいなまれている頑なな気弱なそれぞれの少年の姿であった。今やしっかりと仙台と青森でそれぞれの道を歩んでいる。

 久しぶりの再会。卓也の鍛えられた肉体に陽介がどきどきする場面がある。(卓也が)「大きく伸びをした。巨大な鳥が飛び立とうとしているようで、おれは胸がたかなった」。成長への憧れや幾ばくかの戸惑いが随所に描かれ、面白いところがたくさんある。

 彼らが育った養護施設魴鮄舎が、存続の危機を迎えることで、物語は急展開。何としてでも存続させたい彼らと、ある事情から閉じたいという恵子との葛藤。陽介と卓也が奔走するほどに、気持ちは行き違う。心が乱れてしまった卓也は、バレーボールも高校も辞めようと決意する。「おれはどこにも帰るところがなくなっちまうんだよ」と呟いて。

 拾う神あり。なんとか存続が決まっていく。この時、陽介から卓也の心の結論を恵子は初めて知らされる。ここからが凄い。北海道からすぐに卓也のもとに駆けつけて、いきなりその頬を張る。彼らの苦悩の理由の多くは恵子自身にあったとしても、この一言にあらゆる全てはまとまってしまう。「甘ったれるんじゃないよ」。彼女の存在が故郷そのものといえるだろう。

 私も四十を過ぎて、いまだに人にも自分にも甘えてばかりだ。この目も覚まして欲しい。読み終えて思い出す。先輩教師が生徒たちに良く語っている言葉を。「教室とは間違っても良い、唯一の場所だ」。問い続けよう。今を生きるとは何か。その意味は私たちの目の前の黒板にこそある。強く書きなぐったり、時には静かに字を消したり……。彼らの姿に目頭が熱くなる。

「すばるから生まれた本」書評

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