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「バブル女が拓く未来」 原田ひ香『ミチルさん、今日も上機嫌』 豊﨑由美

原田ひ香『ミチルさん、今日も上機嫌』

本体価 1,500円
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 就活なんてたいしてしなくても内定が取れ、一流会社に入れば〈食事は毎日、男のおごりや仕事の接待でまかなわれ〉、毎夜のように合コンをして、〈どんな場所にも、だいたい男が連れて行ってくれていた〉し、タクシーチケットがふんだんに使えたから移動にお金を使ったこともなく、〈クリスマス・イブには特別なことをする、プレゼントを交換して高級ホテルに泊まる〉のが当たり前——ほんの二十年前、若くてきれいな女子にとっては無敵の世界が存在したのである。

 原田ひ香の『ミチルさん、今日も上機嫌』は、そんなバブルという日本全体が上機嫌だった時代を、今の視点でふりかえる総括小説になっている。主人公は四十五歳バツイチのミチル。中二の頃から振られたことは離婚を含めて一度もなかったのに、三ヶ月前、三年もつきあっていた男から「他の女性と結婚する」と別れを告げられてしまった。おまけに無職。スーパーのレジ係に応募しても採用されず、元夫が譲ってくれたマンションはあるものの、貯金はわずかで心許ない。〈若くて美しかったら決して負けない時代、何も怖いものがなかった時代〉を颯爽と闊歩し、派手な暮らしを送っていた栄華の日々よ、今いずこ。そんな尾羽うち枯らしたミチルが、やっと見つけたのがチラシ配布のアルバイトだったのである。が、この地味な仕事が、アラフィフのバブリー女を思わぬ人たちへと結びつけ、人生を好転させていくのだ。

 かつてつきあった男たちに再会したり、〈これから大きくなっていく、っていうか、今、一番元気な場所でどういうことが行われているのか、全部知りたいんですよね。全部見てから人生を決めたい〉とたくさんの企業でアルバイトをしている意欲的な女子大生と対話したり、元夫からかつての自分を本当はどう思っていたかを聞かされたり、そうした中、バブルという時代や、そこにどっぷり浸かって生きていた自分を振り返っていくミチル。収入としてはたいしたことないけれど、適性が発揮でき、達成感を味わえる仕事も得ることのできた彼女は、四十五歳にして人間として格段の成長を遂げていくのだ。

 読者は、そんなミチルの内省によって、とかくバカにされがちな狂騒的な時代の汚点だけではなく美点を思い出し、と同時に今という苦しい時代から生まれ出でる希望に気づくことになる。そして、へこたれないミチルのバイタリティ溢れる言動によって元気を分けてもらえるのだ。バブル時代を知っている人はもちろん、おとぎ話のような別世界のことと思っている若い世代にも一読をおすすめしたい。

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