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読者を揺さぶる幸福のかたち 中島たい子『結婚小説』 小沼純一

中島たい子『結婚小説』

本体価 1,200円
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 何かにふれれば感じることがある。考えることがある。当然だ。行為や行動と、感覚や思考が、近代の小説なるものをつくってきた。大袈裟かもしれないけれど。なのに、感じたり考えたりするとすぐ、自分で自分につっこんでいる。ひとり漫才の影響? それともカルスタの? 構築主義の?

 冗談はさておき、と言いたいところだけれども、この小説、えぐってゆくのは、文字どおり結婚という制度とそれが唯々諾々と継続してゆく社会だ。アラフォー世代の本音なるものを描いているかのようで、実際描いてもいるのだが、その先をゆくと、制度や社会へと至る。結婚て何? との疑問(じつは、いまどきの学生がときとして真剣な顔して正面切って問い掛けてきたりするんだ、こういうの)。かといって、声高に何やらおカタい言いまわしをするのではない。ちょっとした違和感を、日々の生活の実感のなかで掘りさげてゆく。そこに小説であることの意味がある。その意味では、メタ「結婚小説」もしくはメタ「結婚」小説、か。

 そもそも結婚小説なるものを書き始めんとする「私」は、結婚しているわけでもないし、資料にあたってはみても、結婚するということをめぐるイマジネーションがはたらかない。一度は放棄しようとしたものの、現実はむしろ「私」に対し、小説を促すかのよう、小説から逃れさせまいとするかのように動いてゆく。「私」が小説を書いていることは、めぐりめぐってフィクション/ノンフィクションへの問いともつながる。

 すいすいと読め、微苦笑させられる細部に満ちている。「男性とつきあうということは、どのようなことか。久しく忘れていた感覚がよみがえってきた」——とあるあと列挙されることどもの具体性はどうだ。さらに何度もおこされる想定外のストーリー展開ならぬストーリー屈折は。いきあたりばったりであるかにみえながら、かなり周到に伏線をはって計算されているのが、にくい。最終的には、当初の、そしてタイトルで暗示されるのとは異なったレヴェルでの幸福が待っている。その幸福は、読み手の抱いているイデオロギーを揺さぶる、もしくは反発をよぶ、ものでもあるのだが。

 だから、『結婚小説』をただ読み終えることはできる。できるけれども、そうするとまた、感じる、考えることを、いや行動を促してしまう可能性も大いにある。何しろ結婚、誰にでもかかわりのあることなのだし。。

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