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ブックガイド「近代日本の文芸批評を知るための40冊」

文芸批評を知るために、明治から現代まで──
現在、批評家として活躍する3人が選んだ、
いま読んで欲しい40冊。

選者:杉田俊介/藤田直哉/矢野利裕

渡部直己『不敬文学論序説』(ちくま学芸文庫)

 日本にもし特殊性があるとすれば、それは、天皇制の存在かもしれない。だとすれば、「王政復古」と「文明開化」の両方を体現する存在としての、あるいは、「一個の「人間」にして一国の「象徴」なる存在」としての天皇を描くことこそ、日本で小説を書くことの核心がある。本書は、近代日本における数少ない「不敬文学」を取り上げ、論じる。夏目漱石『こゝろ』、中野重治『五勺の酒』、大江健三郎『セヴンティーン』など、渡部によって「不敬文学」として論じられる小説たちは、新しい相貌を示すことになるだろう。重要なことは、渡部の読解が、作者のイデオロギー云々ではなく、執拗なテクスト・クリティークとしてなされることである。「文学の唯物的な根拠たる言葉」は、その「外在」性において、秘匿すべきものをも直写する可能性をはらむ。当人の思惑すらも越える「不敬」は、細部にこそ宿るのだ。したがって、いかに天皇を描写するか、すなわち、いかに「不敬文学」であるか、という問いは、日本近代文学の本質的な問いとしてある。(矢野)

保坂和志『小説の自由』(中公文庫)

 本書は、保坂による小説論である。保坂は本書以後も、『小説の誕生』『小説、世界の奏でる音楽』と小説論を書き継ぐわけだが、これらが後続の小説に果たした役割は、とてつもなく大きい。二〇〇〇年代後半以降、保坂の試みと共振する一群が少なからず存在し、活躍をしている。実際に影響を公言する小説家もいる。本書は、新しい小説を読む/書くうえで、最良の導きとなっている。保坂的な小説(と括ってしまうのは、とても乱暴だが)は、端的に言えば、時間や人称のゆらぎにその特徴がある。時間や人称の制約から自由になることで、小説表現によってこそ立ち現われる世界を描く。そのような試みは例えば、「小説とはまず、作者や主人公の意見を開陳することではなく、視線の運動、感覚の運動を文字によって作り出すことなのだ」(「視線の運動」)という保坂の小説観と共鳴する。古今東西のあらゆる小説に言及しながら小説の小説たるゆえんを論じる本書は、二〇〇〇年代後半の小説論・創作論として、強い存在感を示していた。小島信夫とカフカについて書いた「それは何かではあるが、それが何なのかは知りえない」は、圧巻である。(矢野)

「すばる」2017.4月号

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