すばる最新号  >  ブックガイド「近代日本の文芸批評を知るための40冊」

ブックガイド「近代日本の文芸批評を知るための40冊」

文芸批評を知るために、明治から現代まで──
現在、批評家として活躍する3人が選んだ、
いま読んで欲しい40冊。

選者:杉田俊介/藤田直哉/矢野利裕

宮台真司『援交から天皇へ──COMMENTARIES:1995‐2002』(朝日文庫)

 本書は、社会学者・宮台真司による評論集で、作品の巻末解説などを集めたものだ。小説こそ扱っているものの、島田雅彦を例外とすれば、いわゆる純文学作品を取り上げているわけではなく、むしろサブカルチャーを積極的に論じている。社会学者である宮台真司のサブカルチャー評論を文芸批評として扱う理由は、おもに二点ある。一点目は、文芸批評家が担っていた社会に対する発言者という役割が、九〇年代あたりから社会学者のほうへ移った、ということ。二点目は、周縁的なサブカルチャーこそが、同時代的な思想をクリティカルに語っていた、ということである。多岐にわたる話題を扱う本書を貫くのは、アノミー(空洞化)の問題である。国家も郊外も性も、アノミーの問題を外して語られることはない。興味深いのは、宮台が、アノミーによってもたらされる「脆弱な自意識」の問題をかつての私小説に見ていることだ。その意味で、宮台は本書において、いわば文学的な問題を引き受けていると言える。宇野常寛を筆頭に、宮台的な問題意識を引き継いだ後続は多い。(矢野)

斎藤環『文学の断層 セカイ・震災・キャラクター』(朝日新聞出版)

 ラカン派精神科医であり、ゼロ年代批評の重要人物の一人である斎藤環が、「文学」を論じた一冊。その射程は純文学だけに留まらず、『Deep Love』『電車男』なども取り上げており、ゼロ年代に生じた文学を取り囲む環境の変化に柔軟に対応したその姿勢が魅力であった。全体はラカン由来の精神分析の装置を用いて、キャラクターと主体の問題、リアリティの問題、家族の問題、ニートの問題などに触れながら、第五章「震災と文学」を論じる箇所が白眉か。阪神・淡路大震災の影響を受けた作家たちの作品を、トラウマや解離などの用語で分析し、ゼロ年代の文化の背景にある「文化的無意識」の大きな断層を論じた箇所は、大胆、かつスリリングである。東日本大震災もまた文化的な断層を起こしているはずだが、その具体的な様相がまだ見えてこない今、一九九五年という「断層」がどう作品に具体化されたと「語られたのか」を参照・検討してみてもいいかもしれない。木村朗子『震災後文学論』とあわせて読みたい。(藤田)

「すばる」2017.6月号

「すばる」最新号

バックナンバー一覧へ

すばる文学賞

  • 応募要項へ
  • これまでの受賞者

投稿原稿について当編集部では、「すばる文学賞」「すばるクリティーク賞」への応募作品以外、原稿をお受け致しません。送られた原稿の返却、お問い合わせにはいっさい応じかねます。

すばるクリティーク賞

  • 応募要項へ
twitter@subaru_henshubu