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ブックガイド「近代日本の文芸批評を知るための40冊」

文芸批評を知るために、明治から現代まで──
現在、批評家として活躍する3人が選んだ、
いま読んで欲しい40冊。

選者:杉田俊介/藤田直哉/矢野利裕

東浩紀『動物化するポストモダン オタクから見た日本社会』(講談社現代新書)

「ゼロ年代批評」を象徴する一冊である。本書は、オタク文化の視点から日本社会を分析するものだが、同時に「文学」という装置が機能しなくなっていく状況そのものを分析したものと読むこともできる。ポストモダンにおいて、オタクに象徴される文化消費の方法は、文学を読むように文脈や象徴を深く読解するのではなく、単に断片に反応するだけに変化していく。「動物化」とはそのような事態である。教養主義の圧力が低下し、自由主義と資本主義を是とすれば、それを止めることはできないので、文学や人文書のような、歴史や文脈を背負っており断片による快楽を提供しないコンテンツが読まれうる環境ではないという危機意識の書物として読むのが正しいだろう。出版社「ゲンロン」を立ち上げ、ニコニコ生放送でトークをするのが、その次の手なのかと思うと、彼の認識する現代の言説空間の荒涼として殺伐とした様に身震いするが、こんな認識を前提に批評を成立させようとする努力は痛々しくも勇敢である。(藤田)

斎藤美奈子『妊娠小説』(ちくま文庫)

 妊娠小説とは、主に男性たちが女性の「望まない妊娠」を消費する小説のこと。それはひそかに「ポピュラーな国民的ジャンル」であり続けてきた。本書は、妊娠中絶をめぐる社会的法的な歴史(堕胎罪/優生保護法/優保改正)と絡めながら、名だたる文学作品を俎上に載せ、男性中心的な文学史の盲点をえぐり出してみせた。極めて明晰だが、イデオロギーによって裁断している感じはしない。斎藤の手腕は、何より、個々の作品の構造やレトリックを丁寧に読み解く真面目な姿勢にある(特に村上春樹『風の歌を聴け』の読解は鮮やかだ)。男の情けなさを小馬鹿にしつつも、文体がどこか爽やかなのは、怒りを通り越して泣き笑いで楽しんでいるからか。一貫してリブ的な気分への捩れた愛惜が感じられるが、それを八〇年代的な風俗批評へと接続し、独自のスタイルを切り拓いた。しかし本ブックガイドもそうだが、この国の文芸評論の歴史は男性批評家の歴史であり、女児を堕胎し水子化するための装置としか思えない。(杉田)

「すばる」2017.10月号

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