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ブックガイド「近代日本の文芸批評を知るための40冊」

文芸批評を知るために、明治から現代まで──
現在、批評家として活躍する3人が選んだ、
いま読んで欲しい40冊。

選者:杉田俊介/藤田直哉/矢野利裕

加藤典洋『アメリカの影』(講談社文芸文庫)

 保守的ロマン主義者としての江藤淳の『成熟と喪失』や占領研究を、保守的リベラルとして丹念に読みこんで、江藤の戦後像とは別の地平を開いた。この国の自然は勝手に崩壊したのではない。我々が高度成長期の中で「殺した」のだ。日本的自然や第三世界のアジア人に対する加害者として、日本人の自画像を描き直すこと—ならば成熟とは何か。江藤の歴史認識を水俣病の文脈と交錯させた。「アメリカの影」に向き合うとは、単なる対米自立路線ではない。他者の侵食や依存の中で熟成してきた、日本の土着に根差すポストコロニアル批評の道を開くことだ。弱さと失語の中で、加藤は静かに問い続けてきた。それは後年の敗戦論や3・11論へと粘り強く持続する。「江藤淳の子どもたち」の系譜があり、本書は上野千鶴子や大塚英志や福田和也の仕事、東浩紀『動物化するポストモダン』、宇野常寛「母性のディストピア」、白井聡『永続敗戦論』等とも併読されるべきだろう。(杉田)

笠井潔『新版 テロルの現象学──観念批判論序説──』(作品社)

 笠井潔と言えば、ミステリ評論『探偵小説論㈼』や「大量死理論」を紹介するべきかもしれないが、現在において最も読まれるべきなのはこれか。本書は、新左翼活動家として笠井が、連合赤軍事件を経て、思想的総括を行ったものだ。そこで主役になるのは「観念」。観念こそが、真の犯人だと考える笠井は、埴谷雄高やドストエフスキーだけではなく、二葉亭四迷や北村透谷に言及し、連合赤軍事件に至る「観念」の歴史を描く。本書は、「正義」や「理想」などの、本来良いものとされるはずの「観念」が、あるべき世界をこの世界に一挙に実現しようとするあまり、倒錯を起こし、この世界や現実や身体への憎悪へと転化していく、その内的なドラマのプロセスを丹念に描いたものである。このような「倒錯」への警戒は現在でも緩めるべきではない。そして、正しいものが腐敗し、悪に転化する悪夢を超えてなお、真の倫理や正義を立ち上げる方法を、ぼくらは模索する必要がある。(藤田)

「すばる」2017.10月号

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