すばる最新号  >  ブックガイド「近代日本の文芸批評を知るための40冊」

ブックガイド「近代日本の文芸批評を知るための40冊」

文芸批評を知るために、明治から現代まで──
現在、批評家として活躍する3人が選んだ、
いま読んで欲しい40冊。

選者:杉田俊介/藤田直哉/矢野利裕

柄谷行人『日本近代文学の起源 原本』(講談社文芸文庫)

 この国の文芸批評を更新した一冊。日本近代文学とは歴史的な制度である。その基盤は明治期に形成された言文一致にあった。言文一致は透明な「内面」を作り出し、同時に観念的な「風景」を作り出した。我々を自意識の球体に閉じ込めた。だが既に「文学」が古びたとすれば、「文学批判」も同じく古びた。重要なのは一つの制度の批判ではなく〈言葉によって在る人間の条件〉それ自体の考察であり、その悪戦苦闘の先で「可能なるポリフォニー」としての多様な「文」をも示すことだろう。本書はしかもそれを「理論」として示した。柄谷は本書の構想を、漱石が『文学論』をロンドンで構想していたのと同じ三四歳の時、イェール大学での明治文学講義の中で得た。ならば「理論的」であるとは「世界的」であらんとする意志だ。小林秀雄ではなく漱石の水脈の中にありえた理論の力。それを我々は正しく畏怖できるのか。本書はフーコー/サイード/アンダーソンらの理論ともシンクロした。大幅加筆された『定本』よりも中身の詰まった『原本』を推す。(杉田)

蓮實重彦『物語批判序説』(中公文庫)

 ぼくたちは、ステレオタイプに取り巻かれている。無意識に、ある類型で物事を理解してしまう癖を、言語あるいは脳の欠陥として抱え込んでいる。「物語批判」とは、それに対抗するプロジェクトである。フローベールやプルーストを読解しながら、読者すら自由ではない「説話論的な磁場」の影響を読書行為によって身をもって思い知らされ、失語させられ、そして終わりの遅延の中でテクストの快楽に巻き込まれる……驚くべき言葉の戦略に満ちた一冊。何かと「問題」を作っては、その「問題」を他人事として共有したり、「紋切型」で議論する人々の織り成す「説話論的な磁場」の具体例は、SNSを見ればげっそりするほどある。うんざりしながら、ぼくもまた「本書は今こそ読まれるべきだ」という「紋切型」を書きつけるが、歴史を超えて繰り返される「紋切型」の説話論的な磁場に対抗する本書の戦術が本当に有効だったのかどうかは、緻密な検証が必要ではなかろうか。(藤田)

「すばる」2017.4月号

「すばる」最新号

バックナンバー一覧へ

すばる文学賞

  • 応募要項へ
  • これまでの受賞者

投稿原稿について当編集部では、「すばる文学賞」「すばるクリティーク賞」への応募作品以外、原稿をお受け致しません。送られた原稿の返却、お問い合わせにはいっさい応じかねます。

すばるクリティーク賞

  • 応募要項へ
twitter@subaru_henshubu