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ブックガイド「近代日本の文芸批評を知るための40冊」

文芸批評を知るために、明治から現代まで──
現在、批評家として活躍する3人が選んだ、
いま読んで欲しい40冊。

選者:杉田俊介/藤田直哉/矢野利裕

磯田光一『鹿鳴館の系譜』(講談社文芸文庫)

 日本の近代化を徹底して翻訳文化として捉えた磯田は、その「皮相な欧化主義」の象徴として鹿鳴館を見出した。本書では、「文学」という訳語の問題から出発し、小学唱歌、湯島天神、「明星」派、日比谷公園など、さまざまな対象に対して、欧化主義と日本主義が絡み合う「鹿鳴館」性を明らかにする。そこでは、「日本」的なものに「西欧」的な性格が発見され、「西欧」的なものに「日本」的な性格が発見される。日本文化の「鹿鳴館の系譜」は、西欧/日本という二項対立を無化するだろう。重要なことは、本書が鹿鳴館を出発点にすることで、文学はもちろん、政治や風俗に至るまでを広く日本文化の問題として捉えたことだ。例えばこれは、大瀧詠一がポップスの領域でおこなったことである。大瀧も、翻訳文化としての日本ポップス史の起点に、やはり鹿鳴館を置いていた。前近代の日本における中国からの影響、あるいは、戦後の日本におけるアメリカの影響など、「鹿鳴館の系譜」という視点は、日本の文化史全体を貫く問題として存在する。(矢野)

秋山駿『舗石の思想』(講談社文芸文庫)

 こんな人間がいるのか。そんな静かな驚異がまずやってくる。一見地味だ。目立たない。だが不気味な存在感がある。いわば殺生石としての批評—秋山は一九歳からひたすらノートを書いた。評論でも小説でも詩でも物語でもない。文学者/犯罪者/病者が区別し難くなっていく「生の最低点」の言葉。机の上に小石を置いて、石ころと等価なむき出しの自分を確かめようとした。いや、もっと直截に、石ころの「声」を聞きたかった。そこから天空に燦然と輝く天才たちを撃った。小林秀雄ばかりか本当は中原中也とすら相容れないものがあった。自分に対して嘘をつくな。何度も何度も低くそう呟いた。八〇歳頃の最晩年の『「生」の日ばかり』シリーズもやはりノートだった。死ぬまで続く歩行の中に、恩寵のように時折り、他者や風景や物語が差し込んだ。どこまでも不気味だが、この人の言葉には、どこか我々の人生をその惨めさの最低点で慰めるものがあった。青春期の殺伐と中高年の熟成が絶妙に混ざった、本書をここでは推す。(杉田)

「すばる」2017.10月号

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