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ブックガイド「近代日本の文芸批評を知るための40冊」

文芸批評を知るために、明治から現代まで──
現在、批評家として活躍する3人が選んだ、
いま読んで欲しい40冊。

選者:杉田俊介/藤田直哉/矢野利裕

橋川文三『日本浪曼派批判序説』(講談社文芸文庫)

 第二次世界大戦に至る日本のファシズムを、日本浪曼派という文学グループの心性から解明しようという試みである。外部から過去を批判することは、誰にでもできる。失敗に終わるという結末を知っているのだから。橋川が偉いのは、自身が日本浪曼派にイカれ、シビれたという立場で、それを隠すことなく、その心理や心情を分析し、批判の俎上に載せるという点である。当時の若者たちがあの意味不明な日本浪曼派に、意味不明なまま軽薄に熱狂していた様が良くわかる。「故郷喪失」感に訴えかけ、「強烈な郷愁」を掻き立てる日本浪曼派的な詩情は現在の政治的言説の中でまだ生きているようだ。個人的には、「無限に自己決定を留保する心的態度」や「道徳的無責任と政治的逃避の心情」が、むしろ国家や政治と結びつくプロセスは、エンターテインメントなどが政治性と結びつかないと勝手に思い込んでいる一部の現代のオタクたちに、百回は音読させてやりたいものである。(藤田)

福田恆存『保守とは何か』浜崎洋介 編(文春学藝ライブラリー)

 戦後を代表する保守思想家として知られる福田だが、批評の腕も抜群に冴えていた。そもそも福田は、戦中にD・H・ロレンスによるヨハネ黙示録の批評『黙示録論』を翻訳しており、戦後それを『現代人は愛しうるか』というタイトルで刊行した。そこからは、ロマン的なものとの血みどろの戦いをくぐり抜けた福田の、通常の「保守」とは別の顔が見える。『黙示録』というテクストは、断片化した人間たちが、なお他者を愛し得るために、有機的宇宙との一体感を(神憑り的な詩的ヴィジョンとして)示すものであり、だからこそ近代的な病理としての弱者のルサンチマンの温床になってきた。ならばそれを批評するとは何か。福田はロレンスと共に『黙示録』の陶酔的な魅惑と危険に踏み込みながら、ぎりぎり「ぼくたちはかれのことばをぼくたちの心理のすみずみに検してその真偽をたしかめることがなによりも必要であらう」と書く。福田の内なる保守とロマンの分岐点。それは近代的な文芸評論の一つの臨界点でもある。(杉田)

「すばる」2017.8月号

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