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ブックガイド「近代日本の文芸批評を知るための40冊」

文芸批評を知るために、明治から現代まで──
現在、批評家として活躍する3人が選んだ、
いま読んで欲しい40冊。

選者:杉田俊介/藤田直哉/矢野利裕

花田清輝『復興期の精神』(講談社文芸文庫)

 レトリックの批評家、花田の代表作。豪華なペダントリーと修辞に溢れ、知的な文章の面白さを存分に味わわせてくれる。だがレトリックとは、気弱な冷笑や「あれもダメ、これもダメ」という相対主義ではない。「転形期にいかに生きるか」の問題であり、いかにあれもこれも生かすか、という知性的な技術の問題だった。たとえば我々は現在、ネットや動画サイト、グローバリゼーションの流れの表層に、花田ほど大胆に全身を沈潜させ、非人間的な「物」になりきれるのか。現代の2ちゃん文体にすらなお残る人間くささを笑い飛ばして、非人間的な文体を発明し、「来るべき復興期」を照らし出せるのか。本書は今なお我々に、瑞々しくそう問いかけていないか。ちなみに花田は、芸術の価値を、孤独な創作や鑑賞ではなく、集団的な運動の中で捉えようとした。「いまだに芸術は、芸術運動のなかからうまれると信じきっている馬鹿」を自称した。そんな集団的な馬鹿になりきること。それは不可能な難題か、自明の理か。(杉田)

平野謙『芸術と実生活』(岩波現代文庫)

 昭和初期の文壇を概観した「三派鼎立」論などにも見られるように、平野は、俯瞰した位置から見取り図を描く能力に長けている。明晰な状況論と、それを踏まえての作家論が並ぶ本書は、基本的には、平野の図式化能力が発揮されたものだと言えるだろう。とくに、「私小説の二律背反」では、破滅型私小説作家における「描くにたる実生活を紛失しながらなお描きつづけねばならぬために、その日常生活において危機的な作中人物と化さねばならぬという一種の価値顛倒」を見事に剔抉した。平野のすぐれた図式化能力に対しては、その図式にそぐわないものを排除する、という批判もある。しかし、平野の真骨頂はむしろ、徹底した図式化ののちに浮き彫りにされる「二律背反」を指摘する点にあると言うべきだろう。平野の批評には、論じられた対象が自らを内破するような契機が潜んでいる。プロレタリア文学運動がその裏で女性を抑圧していた、というハウス・キーパーをめぐる一連の議論も、現在読み直せば、ジェンダー批評における脱構築の手つきそのものである。(矢野)

「すばる」2017.6月号

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