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ブックガイド「近代日本の文芸批評を知るための40冊」

文芸批評を知るために、明治から現代まで──
現在、批評家として活躍する3人が選んだ、
いま読んで欲しい40冊。

選者:杉田俊介/藤田直哉/矢野利裕

保田與重郎『保田與重郎文庫1 改版日本の橋』(新学社)

 保田は、日本浪曼派の中心的な論者である。マルクス主義を享受し、ドイツ・ロマン派に影響を受けた、保田の日本主義のありかたは、結果的に大東亜戦争を肯定する身振りとなる。戦後、公職追放となった保田の思想は、戦中期の評論「文明開化の論理の終焉について」を中心に、いまなお振り返られる。本書は、そんな保田がその名を広めた評論集だ。代表作「日本の橋」は、西洋の橋と日本の橋を比較した日本文化論である。保田によれば、二つの存在のあいだをつなぐ西洋の橋に対し、日本の橋は、彼岸に続く端(=はし)である。保田はそこに、日本的な「言霊」思想を重ねる。興味深いのは、日本的な情緒を謳う保田が、一方で非常に明晰な分析態度を保持していることである。本書は、「日本の橋」を筆頭に、当時としてはかなり先鋭的な言説研究と記号分析が展開されている。西洋的な知を弄しつつ、日本主義に傾倒していくこと。この、合理的に非‐合理を追求するような姿勢が、日本浪曼派的な「イロニーとしての日本」を成立させるのだろう。日本浪曼派の思想は、いまだ日本思想史の課題としてあり続けている。(矢野)

中村光夫『風俗小説論』(講談社文芸文庫)

 日本近代文学の中心とされてきた私小説は、ある時期以降、ほとんど価値のないものとされてきた。その要因のひとつが本書だろう。中村は本書において、日露戦争後の明治末期、外国文学の影響が一般化した時代を日本文学の青春期として捉える。そして、さまざまな可能性をはらんだ青春期を経たのちに、日本の文学が、田山花袋『蒲団』のほうへ進んでしまったことを批判する。中村にとって重要なことは、作品が現実社会に対する「批評精神」をもっているかどうか、作中人物が「新しい個人」として描かれているかどうか、ということだ。すなわち、文学における社会性の問題である。中村によれば、『蒲団』に始まる露悪的な私小説の系譜は、これらを放棄したところにある。中村は、この「リアリズム」の捉え直しのもと、新感覚派やマルクス主義文学までも論じる。同様の問題意識から「転向作家論」が展開されていたのも周知だ。だとすれば、『風俗小説論』は、封建社会から民主社会へ移行するさいの日本社会全体の問題として読むべきである。有名な私小説批判の書は、その意味で、いまなお現代的な問題をはらんでいる。(矢野)

「すばる」2017.4月号

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