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ブックガイド「近代日本の文芸批評を知るための40冊」

文芸批評を知るために、明治から現代まで──
現在、批評家として活躍する3人が選んだ、
いま読んで欲しい40冊。

選者:杉田俊介/藤田直哉/矢野利裕

伊藤整『小説の方法』(岩波文庫)

 本書は、いわゆる新心理主義文学の旗手として小説表現のありかたを理論化していた伊藤が、同時代の日本における小説のありかたを論じたものだ。「日本の文学者は、小さな商業ジャーナリズムに支えられ、意識の上では、現世の秩序の外にある文士という一種の逃亡奴隷の自由生活の実践者だった」(「日本の場合」)という指摘に代表されるように、一般的には、自己暴露型の私小説を批判したものとして知られている。「逃亡奴隷/仮面紳士」という対立図式が有名だ。とは言え、これを単なる私小説批判としてのみ読むべきではない。本書の本領はむしろ、小説表現を社会との関係性のうえで捉えている点にある。伊藤からすれば、「逃亡奴隷」を可能にするのは、「小さな商業ジャーナリズム」や「文壇というその小さなサアクル」(「放棄と調和」)などといった作品外の要因である。本書の革新性と現代性は、そのような作品と社会の関係を明晰に分析している点に他ならない。のちの読者論やカルチュラル・スタディーズ的な手法を先取りしているかのようである。(矢野)

正宗白鳥『自然主義文学盛衰史』(講談社文芸文庫)

 それが本当に日本独自のものなのか、という点については議論の余地もあるだろうが、自然主義文学及び私小説が、少なくとも、日本近代文学の大きな潮流であったことは間違いない。本書は、その自然主義文学の隆盛と衰退を描いた一大絵巻だ。現在から振り返れば素朴すぎる点もあり、明晰な分析が展開されているとは必ずしも言えないが、それでも本書は、自然主義文学を知るうえで最良の一冊である。それは、文壇回想録の性格が強い本書が、結果的に、文壇という「場」(ピエール・ブルデュー)と強く結びついた自然主義文学の核を突くからである。人生の真実を記述するためにあるがままを描く、という自然主義文学は、良くも悪くも作品を独立したかたちで評価するのが難しい部分がある。モデル問題や事実認定をめぐる問題もある。それはしかし、文壇という「場」自体が自然主義文学を育んだ、ということでもある。文壇のただなかに身を置き、作者たちとの実際の交流をもとに、推測と想像と記憶を交えた白鳥の語りは、それ自体がすぐれた自然主義文学批評として機能している。(矢野)

「すばる」2017.10月号

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