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ブックガイド「近代日本の文芸批評を知るための40冊」

文芸批評を知るために、明治から現代まで──
現在、批評家として活躍する3人が選んだ、
いま読んで欲しい40冊。

選者:杉田俊介/藤田直哉/矢野利裕

蔵原惟人『日本プロレタリア文学評論集・4 蔵原惟人集』(新日本出版社)

 マルクス主義の言葉はとっくに古びた。今、そのまま読むのは難しい。しかし、科学的な「正しさ」によって、曖昧な主観や印象を駆逐し、社会をよりよく変えること。依然としてそれは普遍的な課題であり、近代以降の文学や芸術はそれに対する緊張関係の中で自らを高めてきた。「正しさ」の嫌な感じと魅惑。蔵原の評論にはそのいずれもがある。極めて明晰だが、決して機械的な裁断ではなく、文学が本当に大衆の感情を揺さぶり、愛されるのを望んだ。実際ある時期のプロレタリア文学は売れた。蔵原はロシアの詩人エセーニンの自殺に満身の同情を示しつつ、その先を生き延びるために社会主義を選んだ(宮本顕治「「敗北」の文学」と同じく)。マルクス主義の教条性と日々の暮らしの労苦、その矛盾に引き裂かれ続けるのが〈プロレタリア〉の身体なのかもしれない。若い頃からロシア文学や象徴詩が好きで、柔らかい同情心の持ち主だった。戦中苦しい状況で書いたノート『渡辺崋山』等を読むとわかる。(杉田)

小林秀雄『小林秀雄初期文芸論集』(岩波文庫)

 小林秀雄と聞くと、「印象批評、古い」と片づけてしまう人がいる。あるいは、教科書で読んだ「無常といふ事」などの影響で、「なんか日本的な美にうっとりして、何を言っているのかわからない人」と思っている人がいる。それはもったいない。初期の小林は、非常にクリアなロジックを持ち、自分の属している言説空間を俯瞰的に見通すことができ、イデオロギーの磁場を相対化することが可能な、とんでもない視線を持ち得ていた批評家である。「様々なる意匠」はその才能が冴え切った逸品である。批評の様々な方法論や意匠を相対化し、批評することとは一体何かを突き詰めて考えていった先に、悪評高い「印象批評」が生まれるわけだが、それを簡単に切り捨てる者は、様々な批評の「方法論」や「嗜好」を相対化してしまう視点に立たざるを得ないものが、それでも如何にして作品を愛し批評を行うのかという原理的な問題を、真剣に問うたことがない者である。(藤田)

「すばる」2017.4月号

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