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ブックガイド「近代日本の文芸批評を知るための40冊」

文芸批評を知るために、明治から現代まで──
現在、批評家として活躍する3人が選んだ、
いま読んで欲しい40冊。

選者:杉田俊介/藤田直哉/矢野利裕

北村透谷『北村透谷選集』(岩波文庫)

 透谷は近代的な恋愛の観念を普及させた先駆者である……とか紹介しても、最近はウケが悪い。もはや「近代的な恋愛」や「プラトニック・ラブ」などは、時代遅れでピンとこないのかもしれない。むしろ、彼をアニメのキャラクターや声優、アイドルなどが処女でなかった場合に怒り狂う人々=「処女厨」の先祖である、と紹介した方が通じやすいのかもしれない。男子学生が女を買うのが当たり前にまかり通っていた時代に、処女の価値を説いた「処女の純潔を論ず」は、「処女厨」の先祖の名に相応しい。が、処女厨諸君、彼はむしろ女子学生向けの雑誌に書き、女子学生から支持を得ていたのだ。同時代の堕落に抗い、キリスト教に由来する観念的な道徳に懊悩し、「内部生命論」などの独自のロマン主義的な思想を発展させ、肉体や現世を否定して若くして死んでしまうほどの覚悟は、君たちにはあるまい。いや、むしろ、ない現代の方が、健全だという考えもありますけどね。(藤田)

石川啄木『時代閉塞の現状 食うべき詩 他十篇』(岩波文庫)

「自然主義」は矛盾に満ちた、定義の定まらない思潮であるが、そうであるがゆえに、国家の強権との対決から逸れさせてしまう機能を持っているので、乗り越えなければならないと高らかに宣言する文章である。書かれたのは、「大逆事件」の前後であり、国家による思想統制や検閲、弾圧、徴兵や高率の租税などがこの文章の背景にあり、世を改善するために「小説のありかた」に宣戦布告しているのが重要なところ。面白いのは、「時代閉塞の現状」の実例として、「奉職口」のために学生が着実になったことを挙げている点。「その半分は職を得かねて下宿屋にごろごろしている」。就職活動が厳しくなり、学生が従順になり非正規雇用が増えた現代みたいではないか。「未来」を奪われたわれわれ青年たちは「一斉に起ってまずこの時代閉塞の現状に宣戦しなければならぬ」という一節などは、今でも使えそうなアジテーションだ。しかしながら、当時、朝日新聞はこれを掲載しなかった。(藤田)

「すばる」2017.12月号

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